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2006-12-09-Sat-20:31

冬の庭

あれはたしか小学生のころ
ちいさな花をいじめたことがあった
冬がカサリと音を立てはじめたある日
お母さんがお庭でいっしょうけんめい
そだてた花を

「しゃんとしなよ」
「ねえ、枯れちゃわないで、しゃんとしな」
はじめは爪ではじいて
それでも花はコクリともうなづかなかったので
そのうちおなかから熱いヘドがこみあげて
気がついたらそばに立ちはだっていたツバキを
おもいきりけとばしていた。
けとばして、けとばして、

  ねえ、きょうも学校にいったら、
  上ばきがなかったのよ
  先生に言ったら、笑いながら
  もっとちゃんとさがそうね・・・だって。
  でも、知ってる。
  みんなわたしのものをぬすんでは、
  わたしのそうしきごっこをしているのを。
  だから上ばきだって殺されちゃったんだわ。
  ・・・わたしがいなくなったら、
  みんなわるいことしたっておもうのかな?
  それともせいせいするのかな?
 
ダン…バサリ、ドン…バサバサ、と
ツバキをゆさぶっているところを
お母さんがかけよってきた。
わたしの腕をつかんでじっと見つめるので、
わたしは口をぎゅっとむすんで地べたをにらんだ。
「・・・お花がかわいそうでしょ?」
お母さんは、
ズシンとした声を
わたしの頭になげかけた。
そのまま腕を引っぱって家に入ろうとするので、
からだをふりはらって庭を飛びだした。

わたしは西へ西へ、走りはじめた。

 (お母さんのかなしそうな顔がよぎる)

わたしの頭は
だれもしゃべっていないときも
つめたい雨みたいな声に
ずんずんなぐられていたから、
ぐしょぬれになって
氷みたいに動けなくなって、

 (しゅんと枯れそうになった花がよぎる)

ねえ、花は
人になりたいとか鳥になりたいとか
おもったりしないの?
ふまれてもけられても
にげられないのに、
ねえ?

 (わたしの、
 殺されてしまったものたちがよぎる)

夕日が真っ赤ににじむころ
町のはずれに着いた。
大きな川が
とおせんぼするように
流れていたので
足をとめた。
息がぜいぜい
ないているのは
とまらない。

ぽつり、と
川のむこうへ
なみだみたいに
夕日が落ちていった。
川をのぞきこむと
今にも飛びこみそうな
わたしが
ゆれていた。

―――これいじょう
     いっちゃだめ!

からだに電気が走る。
めまいがして、ふと上を向くと、
うでを広げるよりも、川が流れるよりも、
もっと大きな空がわたしをつつみこんでいた。
しゃがんでいるまわりの
枯れ草も
北風も
三日月も
みんなみんな
大きな空のなかに
ある。

   あのね、
   学校のうら庭で
   上ばきと
   チョークでコンクリートに
   「シネ」って
   書かれているのを見つけたとき・・・
   ほんとうに、いなくなりたかったのよ。

――――――もうこれいじょう
               
         どこにも、いけない。



すっかり夜になったころ
わたしはうなだれて
家へもどってきた。
お母さんは
泣きはらした目をして
それでも何もなかったように
あたたかいミルクをいれてくれた。

うんと冷えたゆび先で
マグカップにふれると
じんとしびれて
きもちいい。

「今はまだ小さいから
どこにもいけないかもしれないけど」

お母さんは、わたしの目をみてつぶやいた。

「大きくなったら、
どこにでもいけるから」

目をつむったら、
しゅんと枯れていたはずの花が
三日月みたいに
白く光りはじめた。

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