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2008-08-31-Sun-00:00

染色

水族館の生き物たちは
ナポレオンフィッシュやシードラゴンから
顔のないイソギンチャクまで
どこかで見たことあるような顔をしているけれど
案外 誰も媚びたりはしない
目をぎょろつかせてそっぽ向いたかと思ったら
くねったり まどろんだり とびあがったりして
悠久の流れの果てで一瞬きらめいた泡のように
生きている

日射しが届きにくい深海に
赤いキンメダイがいることや
マグロの背中は暗緑色で
お腹は銀色をしているのにも
意味はちゃんとあって
命を守るために自らを染色したプロセスを
体の内から鏡のない中でどのように成したのか
謎はブラックホールのように渦巻いて
物語ろうとしない

硝子の壁に食いつくように
エンゼルフィッシュを撮影する携帯電話から
突然 虹色の警報のような旋律があふれて
持ち主があわてて口元を手で押さえて応対する
ヒトはよりよく生きるために
どれほど地球を染色したのだろう
目蓋を麻痺させるほど淋しい光のビートで
都心の心拍数を上昇させる陰で
氷の大地を溶かしてまで

胸に手を当ててみる
まだ大丈夫
波打っている
でも こうして
吐息を浮かべるだけでも
水気のない水槽のような世界を
さらにヒートアップさせてしまうのだろうか

黒い人影が揺れる
水の中を
色鮮やかな魚が
ひとすじの歌のように
泳いでいく


囲われているのは本当はどっちなのだろう―――


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2008-08-31-Sun-00:00

故郷が生まれる

「この町を出よう」

と、決めたときから
わたしの身体は透き通っていった

朝に夕に
素足をさらした畳に
横たわって
天井の木目を仰いでいる間に

幼いころ
かくれんぼした駐車場で
フェンスの錆びた匂いを
聴きつけた時に

夜更けに
今はもう永遠に閉まっている
タバコ屋の赤いポストへ
満月に向けて手紙を投函した刹那に

わたしの身体は
川面に浮かぶ泡沫のように
あふれる景色を
うっすらと透かして
河口まで流れてしまったことに気づく

いつかこの町から
わたしの姿が見えなくなっても
遠い空の下で
わたしが泣き濡れてしまわないように

予行練習
しているのかもしれない

駅前の青い桜の下で
手のひらをかざすと
セロファン状の皮膚の向こうで
木洩れ日がフラッシュする
この内をかけめぐる血管では
つかめない何か

高鳴る風に
溶けこむように
透き通っていくわたしの中心に
ととん……たたん……と
胎動を見る

(もうすぐ、列車が来る)

わたしの生まれた町が
すくっと二の足を立てて
羊水を蹴り上げる

かかと、波打って

町は
河口の先で
大きく輪廻して

(まもなく、出発する)

ドアの彼方の逆光へ
消え入ろうとする
わたしの中から
故郷が生まれる


2008-08-31-Sun-00:00

対岸の星

気づかなかったよ

いつも乗り換えしている駅の
線路を挟んだ
対岸に
どくだみが
咲き乱れていたことに

時は六月
闇に白々と灯るそれは
星くずのようだったことに

わたしが故郷と同化していたころは
この目に映っていても
見えていないものが多かったけれど

水と油が分離するように
故郷を旅立つ心づもりをするようになって
ようやくありありと見えたものがあった

アナウンスが流れる
闇をナイフで切り裂くように
光をかざした電車が来る

足元を潮が引くように
風が吹いて

天の川がきれいな季節ももうすぐ

そして
そのころはもう
わたしはここにいない


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