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2012-10-29-Mon-23:34
夕映えに乱反射する
河口のようなきらめきを
枝先にふっとふりしぼるように
梨は金色の実をならしました
ほんとうに果てる命など
みじんもないのだという想いを
その実にみずみずしく
結晶させるかのように
黄葉の散った根元に腰かけて
ほのかに眩しい実を口にしたら
芳醇な香りが脳裏をめぐりました
わたしの奥のどこか遠い丘で
かつてこの身が梨だったときの記憶が
白い霧雨を浴びて芽生えていきます

(Seasons-plus-2012年秋号 掲載作品)
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2012-10-29-Mon-23:30
虫の音にびしょ濡れになって
深夜のアパートに戻ってきた
ドアを後手で閉じた瞬間
散らかった沈黙に迎えられた
サンダルを脱ぎすてると
ストラップにからまっていた
鈴虫の三連符が
RRR……と余韻を立てた
もうヌードトゥの季節じゃないのかもしれない
それでも最先端で風を感じて
踏みしめていきたい道がある
さみしさを深めるために靴底を減らしていくよ
いつか体じゅうの輪郭をほどいて
大気に飽和するときのために

(Seasons-plus-2012年秋号 掲載作品)
2012-10-29-Mon-23:23
夏が見えなくなった瞬間
きみはわたしの肩越しに
雪のような言葉をぶちまけて
傷だらけのドアに逃げこんでしまった
しんとした寒さが
火照ったからだを駆けめぐり
わたしはまっ白になって
きみを抱きしめたいと想った
そんなに尖らなくてもいいよ
きっと指先まで凍えていたんだね
あの夏を追いかけて走っていたときも
きみが猛吹雪になってしまったのは
心のどこかで少年が震えているからだろう
閉ざされたドアの向こうは銀世界かもしれない

(Seasons-plus-2012年秋号 掲載作品)
2012-07-17-Tue-23:11
夏の日なんか
氷ってもいいのに
きみの微笑みに注ぐ
木蔭になれるなら
蒼い陽射しが凍てついてもいいのに
きみの吐息から
暗号が零れるたび
心臓が焦げるほど
つづきが
ほしくて
夏の空なんか
氷ってもいいのに
もう時の流れもいらない
世界が眩暈を起こしたままでいい
きみの髪をなでる
泡雪のような
闇になって
とけるように
ひとつになりたいのに
ふたりをへだてる
風は
めざめて
Ombra mai fu…
終わりない道を
祈るように旅しても
こんなに狂おしい瞬きは
これから先も
光の果てまで
ない
すずかけの
みどりの透き間から
太陽が水しぶきを散らすと
蒸せる風はゆき
きみひとり
澄んで
みなもとを
なくしたまま
うまれおちる
涙――
(Seasons-plus-2012年夏号 掲載作品)
2012-04-09-Mon-23:26
金の雪が咲き零れたのは
その木の根元に
凍りついた懐中時計を
埋めてきたからでしょう
スケッチブックに
光の結晶が滲むのも気にせず
君は8Bの鉛筆を疾走させて
鼓動をさらけ出しています
年輪を溶かしに戻って来ました
長い旅の終点は
わたしの中心で高鳴っています
どんなに冬がめぐっても
懐かしくならない君の声が
わたしを芯から抱きしめていました
(Seasons-plus-2012年春号 掲載作品)