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2008-11-03-Mon-22:31

腐乱

洗濯しておいた
Tシャツに
鼻をそっと寄せてみる

「あ……匂う」

それは
シャボンの残り香とは
ほど遠い匂い

風の通わない部屋に
干していたのが
いけなかったのだろうか

わたしは女で
ひとり暮らしだから
ユニセックスなTシャツを
ベランダにさらすことさえ
躊躇ってしまうのだ

からだの部位でも
血が通わないと
腐るのよ、と
誰かが言ったことが
脳裏をよぎる

自分の意識を
この部屋から
そして
この街から突き離してみれば
地球だって
幾筋の脈が入り乱れる
生命体

この星の
何が
澱んでいるのだろう

星の静脈を
指先でなぞれば
レコード針が
傷を嗅ぎつけたように
反芻される
SOS……
SOS……

ニュースは
今日も告げるのだろうか

どこかの空で
腐乱死体が
転がっていたと

ベランダから注ぐ
陽光だけが
眩しく
この耳を
透過していく


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2008-10-25-Sat-23:31

金木犀

「愛の数だけ
金木犀は咲くの」と
姉さんは言うけれど
愛をどう数えたらいいか
わからない

キッチンで
湯気を立てている
かぼちゃのスープも
お庭で刈り取られないまま
日なたぼっこしている
草花たちも
みんなみんな
愛のような気がする

そもそも
愛って数えられるのかしら

「ひとーつ」と
人差し指を向けた先から
みえない星屑がこぼれて
体中をさわさわと包むので
指さしているのが
恥ずかしくてならなくて

人差し指を
そっと
唇に当てる

せっかく
薫りはじめた
金木犀を
大声で散らして
しまわないように
2008-10-14-Tue-00:12

Black Rain

頬にはいつも
タダシイ雨が
降り注いでいたから
どちらを向いても
「あなたはあなただ」と
ゆるされた

雨の雫は
倍々ゲームを
繰り広げるように
お互いを映し合って
夜明けによく似た夕焼けに
照り輝いていた

乱反射する
水性のひだを透かして
世界をのぞき見するだけで
ありとあらゆる人が
潤っているような
気分を味わえた

掌にはじけた
蜜色の真珠のなかでは
あごのしゃくれた男が
城を築いている

前髪から垂れた
針水晶のなかでは
銀色の爪の娘が
ハープを奏でている

枝先でふるえる
枯れ葉を濡らす雨は
何を映しているのだろう


九月の月曜日に
Black Rain 降る

雨は映した
はじまりの空も
ドレスを脱いで
裸体をさらせば
底無しに暗いことを

オセロの
雪原の角から
熱いコールタールが
どっと流し込まれるように
人々の足元が
みるみるぬかるんでいった

枯れ葉が
紙くずのように散る
モノクロームの林の陰で
蜘蛛の巣にからまった誰かが
喉元を手で押さえて
落ちていく

それでも雨は
こぼれた人を
「あなたはあなただ」
と いって
どこにも帰れないまま
疾走しつづけるのだろうか


九月の月曜日に
Black Rain 降る


2008-08-31-Sun-00:00

染色

水族館の生き物たちは
ナポレオンフィッシュやシードラゴンから
顔のないイソギンチャクまで
どこかで見たことあるような顔をしているけれど
案外 誰も媚びたりはしない
目をぎょろつかせてそっぽ向いたかと思ったら
くねったり まどろんだり とびあがったりして
悠久の流れの果てで一瞬きらめいた泡のように
生きている

日射しが届きにくい深海に
赤いキンメダイがいることや
マグロの背中は暗緑色で
お腹は銀色をしているのにも
意味はちゃんとあって
命を守るために自らを染色したプロセスを
体の内から鏡のない中でどのように成したのか
謎はブラックホールのように渦巻いて
物語ろうとしない

硝子の壁に食いつくように
エンゼルフィッシュを撮影する携帯電話から
突然 虹色の警報のような旋律があふれて
持ち主があわてて口元を手で押さえて応対する
ヒトはよりよく生きるために
どれほど地球を染色したのだろう
目蓋を麻痺させるほど淋しい光のビートで
都心の心拍数を上昇させる陰で
氷の大地を溶かしてまで

胸に手を当ててみる
まだ大丈夫
波打っている
でも こうして
吐息を浮かべるだけでも
水気のない水槽のような世界を
さらにヒートアップさせてしまうのだろうか

黒い人影が揺れる
水の中を
色鮮やかな魚が
ひとすじの歌のように
泳いでいく


囲われているのは本当はどっちなのだろう―――


2008-08-31-Sun-00:00

故郷が生まれる

「この町を出よう」

と、決めたときから
わたしの身体は透き通っていった

朝に夕に
素足をさらした畳に
横たわって
天井の木目を仰いでいる間に

幼いころ
かくれんぼした駐車場で
フェンスの錆びた匂いを
聴きつけた時に

夜更けに
今はもう永遠に閉まっている
タバコ屋の赤いポストへ
満月に向けて手紙を投函した刹那に

わたしの身体は
川面に浮かぶ泡沫のように
あふれる景色を
うっすらと透かして
河口まで流れてしまったことに気づく

いつかこの町から
わたしの姿が見えなくなっても
遠い空の下で
わたしが泣き濡れてしまわないように

予行練習
しているのかもしれない

駅前の青い桜の下で
手のひらをかざすと
セロファン状の皮膚の向こうで
木洩れ日がフラッシュする
この内をかけめぐる血管では
つかめない何か

高鳴る風に
溶けこむように
透き通っていくわたしの中心に
ととん……たたん……と
胎動を見る

(もうすぐ、列車が来る)

わたしの生まれた町が
すくっと二の足を立てて
羊水を蹴り上げる

かかと、波打って

町は
河口の先で
大きく輪廻して

(まもなく、出発する)

ドアの彼方の逆光へ
消え入ろうとする
わたしの中から
故郷が生まれる


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