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2010-12-16-Thu-22:52

ティーポットの中で

ティーポットの中で
泣き叫んでも
無駄だよ

透明な壁の奥で
縮こまって
飲み込まれていくのを
選んだのは
他ならぬ
わたし
だから

 じんわり熱い
 琥珀色の湯船に
 肩までつかって
 歪んだ硝子越しの
 冬空をにらんでいました

 外に出るの
 いやだな
 雪 降りそうだし

 産毛で気泡を立てて
 染み入るような
 渋味も
 グラニュー糖で
 ごまかせたらいい

 巨人の
 ささくれた指が
 取っ手を
 持ち上げるときだけ
 溺れそうになるけど
 ここはここで
 楽なんだ

それでも
雪が吹きすさぶうちに
うずくまっているだけじゃ
ポットはどんどん冷えていくことを知りました

巨人が
寒さを紛らわせるために
ポットを注いで、注いで、
やがて飲み干されてしまったら
薄氷で閉ざされたような空間に
たった独り 残されることも見えてきました

 (今からでも、
 遅くないだろうか)

心の底から
声がきこえる
取り乱しそうな
涙腺をよそに
しん と
さえわたる
湧水のような

 (もう一度、
 生きなおすことは
 できるだろうか)

重い蓋を
ぐっと押し上げ
幻が沈殿した
ぬるま湯から
力をこめて這い上がって

この手は、この腕は、
わたしだけを抱きしめるために
とうとうと脈打っているんじゃない

ほんとうは
こんな凍えそうな夜こそ
温かなジンジャーティーを
この指で
一杯
二杯‥‥と
淹れて

だれかの孤独を
湯気で
そっと
慈しめるような
人になりたい


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2010-10-31-Sun-00:06

秘する花

金蜜色の薫りが頬をかすめて
夕暮れの道をふり返りました

雑踏にまぎれて
途切れがちなソナチネ
沈黙がメトロノームを奏でています

呼びとめた声は霧雨よりも細く―――
ひょっとしたら空耳だったかもしれません

それでも一糸一糸
綾をなして紗となって
この身を華やかにくるんでいきます

 どこかできっと
 金木犀が立っている
 背を伸ばし
 うなじを匂わせて
 誰の目も
 届かないような
 静かな場所で
 どこかで高く高く
 金木犀が立ちつくしている
 焼きつけるように痛い
 冬と夏とを
 かたくなに忍んだ果てに
 生まれたての
 やわらかな
 流星雨を
 両腕いっぱいに
 光らせて

自動車の排気ガスが行き交う道に
ほつりほつりと
咲きはじめる乳白色の街灯り

同じ処で幾度もつまずいても
ピアノの音色は
空へ羽ばたく助走をやめません

この星の
一地点さえ
(そばにいる
 金木犀さえも)
瞳に映せないでいるわたしも
なゆたの隠れた星くずに
どれほど見守られているだろうと
肌身で感じながら

夜明けのような
夕闇に背を押されて
ふたたび歩きはじめます

 秘すれば花

 秘せずば
 花なるべからず ※

いつか聞いた
言の葉の蔭で
息づく薫りに
そっと
耳を澄ますように



 ※ 世阿弥「風姿花伝」
2010-10-03-Sun-22:15

わたしに帰る

梨の木々が
満月のように
ふくいくと香る夜を
肩に流しながら
自転車をすべらせていると
地球のまるみが
遠くまで
視えるようです

土に転がった梨が
やがて
凛と
実るように

満月も
ひとめぐりすれば
ふたたび
円かに輝くように

わたしもいつかは
わたしに帰るのでしょうか

あの日
星を実らせようとして
手が痛むほど
荒れ野を耕したのも
決して無駄ではありませんでした

一昨年よりも
去年よりも
いっそう豊かな秘密をはらんで
秋が
舞い戻ってきます

知らないうちに
こぼれ落ちていた種を
鈴生りにするために

 帰って
 いきます

 みんな
 みんな
 わたしに
 帰っていきます

まるく繋がった時を
駆けぬけていけば
背中を押していた風に
めぐり会えます

不毛な地に
涙を植えつくして
しゃがみこんでいた
わたしも

なつかしい未来に
帰っていきます

2010-09-14-Tue-01:11

Do-Re-Mi(九月のエチュード)

Drop


ほんとうは
いつも
ここでうずいていた

ポケットにしまったまま
ペトペトにとろけた
空色ドロップのように

たそがれ時の
信号待ちのさなか
ひこうき雲が
ホームランになりそこねた
ボールのように
うすらいでいって
夏が、手を振った気がした

けれど

左胸のあたりで
心をつきぬけたかった、何かが
わたしを
交差点の端で
足踏みさせている

ソーダ味の汗かいて
声もなく
叫んでいるみたいに
「まだ、ここに」
「まだ、ここに」
って



Raisin,and…


ちいさいころ
苦手だった
レーズンを
大人になって
しっとり
かみしめるように
なったように

夏のあいだに
頬張ったものは
みんな
お日さまの
甘みがしたのだと
ようやくわかりました

お茄子も
ブルーベリーも
ちょっと癖がある
つる紫さえも

みずみずしいものは
お日さまの
濃い光を
芯に
満たして

この歯に
くだかれても
いのちを繋ごうと
ほとばしって
やまない



Mille-feuille


思い出になりそこねた
きおくの欠片が
九月の陽に焼かれた
さくら葉のように
いつか
とほうもなく
ふりつもって
層をなしていきます

 サク、サク‥‥
 
  サク、サク‥‥

やがて
粉砂糖のような雪が
まぶされて
わたしは
かかとの下の
忘れものを見失ったまま
さまよいつづけるのでしょうか

 あのね
 上手く
 口にしようとしても
 いつもぽろぽろ
 こぼれてしまうの

夏は
真っ赤に熟れた
さくらんぼのジャムのよう

かじったところから
ルビー色の鮮血が
あふれて

時に
のみこまれたものたちを
よみがえらせてしまうでしょう

日記に
書きそびれた
ささやかな
かなしみも

伝えることさえ
叶わなかった
さよならも





2010-08-31-Tue-21:41

空の寿命

「空にも寿命がある」

と、あなたが呟いたとき、
わたしの手元で
シャーペンの芯が
線香花火の玉が落ちるように
ふつり、と折れました。

高校の演劇部の物置小屋の
日に焼けた窓の向こうで広がる空は
限界なんて知らないよ、って顔して
金色の羊雲をふたつ、みっつ浮かべています。

「それって、何かのセリフ?」

「いや。
 空にも寿命があって、
 シャボン玉みたいに
 ふくらんで、とんで、われて
 そして新しい空に生まれ変わるんだって」

「空も、いつかは亡くなるってこと?」

「かもな……」

そう呟いたあなたの喉仏が
詰襟の陰でかすかに波打って、
少し埃っぽい陽射しに照らされた輪郭は
今まで見たことないような雄々しさを感じる半面
今にも破裂して消えてしまいそうで、
わたしは胸の高鳴りを抑えるのに
必死でした。

ととっ……ととっ……
心臓もふくらんで、ちちんで、
またふくらんで、いつかは……


それにしても
あのとき書きかけた文字の先には
どんな言葉が胎動していたのだろう。

制服に縛られていたあの頃を
ふり返る歳になっても
まだ何かに囲われている。
会社、とか、社会、とか
そんなカテゴライズだけじゃなくて
もっと、何か、別の、

真夜中に
赤ちゃんが
突然泣き出したみたいに
枕元で携帯電話が震えて、
寝ぼけ眼で
あやすように着信ボタンを押す。

懐かしい市外局番から始まる番号の主に
あなたの早すぎた終わりを知らされる。

一瞬、
夢かと思い、
タオルケットからはみ出た足先まで
凍りつきそうになったけど、
まだ脈打っている。
唇に薄氷のように張りついた
酸素を吸引して
生々しく体温を保っている。

あの日のふたりを
まあるく包んで
明るい闇へと
みちびいていた空も、
いつか、どこかで、
生まれ変わるのだろうか。

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