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2011-12-15-Thu-23:45

ブラッドオレンジ

かなしみにも
色があるのでしょうか。
空のように
日ごと、いや、秒ごとに
色を変えていくのでしょうか。
そうしたら
今、この瞬間は
夕焼けのブラッドオレンジです。
どうしようもなく澄み切って
大地の血管まで透けてみえそうなのに
ふるさとだけが見えません。



わたしのふるさとは川です。
それは、あなたとわたしを大きく分かつ川でした。
古い橋の入口には、有刺鉄線が野茨のように絡みついて
いて、ペンキの剥げかかった看板には、黒い文字で
「立入禁止」
と書かれていました。
それでも空は、眼差しが届かない先まで広がっていて、
声にならなかった吐息の向こうで、鳥の群れがいつかの
約束のように行き交っていました。

熟れた果実が
木陰を揺らして
根本に落ちるように
帰りたい
と、何度願ったことでしょう。

轟音。そして、真っ暗な陽射しが乱打する川面に、二対
の塔とミサイルのような翼が、煙を立てて崩壊するのが
映って、世界がかかとの下で砕け散っていくのが聴こえ
ました。
(ツギニブチヌカレルノハ、ヒトダ)
わたしは瞳に焼き付いてしまった影を振り払うように、
河原の帰化植物がざわざわ高鳴るなかを逃げていきまし
た。

ふるさとは、離れてしまったから帰れないのではありま
せん。
ふるさとは、欠片となってこの背中に突き刺さっていま
す。
手が届かないほど、生温かい暗部に埋もれて、どくどく、
どくどくと、凍えるような熱を流して、そして、



今も体内のどこか遠い処で、ふるさとの川が赤々と流れ
ています。
日向色に実ることなく、風にもぎとられてしまった魂た
ちが、これ以上何も失えない空で苦い飛沫を散らして、
取り返しもつかないほど暮れていきます。

(帰りたい)

朝靄にうなじをくすぐられながら、足音を鳴らしてあの
橋を渡る日へ。
あなたとめぐり逢う、その日へ。
わたしたち、瞬きの色も違っていて、どこまでも分かた
れてしまうかもしれないけれど。
違う、ということを赦されたまま、いつか同じ土の下へ
帰っていけるなら。
祈りをこめて、草舟を放つ。
大いなる時よ――夜明けの方に流れているのなら、どう
か。


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2011-11-05-Sat-00:00

秋桜

赤い夕焼けを
薬指で すくって
唇に紅をさしましょう

これ以上
彩らなくても
胸の内から華やいで

あなたの名を
口に灯しただけで
微熱が伝わってしまいそう

変ね

あなたの前では
つぼみのような少女に戻って
銀河のはじまりまで
手をつないでいきたくなります

ふたりを抱く
あかね空も はなの海も
歩くそばから
散り果てようとしているのに





(Seasons-plus-2011年秋号 掲載作品)
2011-11-05-Sat-00:00

青林檎

君の望みが
生まれながらに青いまま
実を結びますように

都会中の
匂いを消された樹々が
冷ややかに燃えて
やがて世界が
無色の灰を散らしたとしても

君は芯に
海を血しぶかせたまま
アスファルトの
混乱した道を
まっすぐ駆けていけますように

 空が、高みに逃げていく
 木枯らしが、鋭く研がれていく

 君は喉に
 切っ先を、突きつけられても
 足元の星をあきらめたくないと、うたう

君の望みが
永遠につづくように青いまま
実を結びますように

完熟しない色も
いとしく歪なところも
そのままに

熱く
透きとっていく
吐息の果てにある
大海原に
還っていけますように





(Seasons-plus-2011年秋号 掲載作品)
2011-08-18-Thu-23:55

Moon Child

みぎめは
ひだりめを
見たことないまま
自転車のように
視線をすべらせようとします

ひだりみみは
みぎみみに
触れたことないまま
底無しの
らせん階段を造ろうとします

わたしは
メヴィウスの環の中で
永遠にわたしに
めぐり会えないから
新月の晩に
身を切るように
わたしの片割れを産みました

 わたしが、光で
   あなたが、影で

喃語から物語を
ふくらませるように
あなたは
地球を踏みしめたばかりの
柔らかなかかとで
宇宙から流れる風を
耕していきます

ころがして間もない
半熟のことばが
小石につまずくと
あなたは
癇癪を起こして
わたしの腕の中で
むずかります

でも
半欠けの種も
うねりにうねって
やがては迷路をはらんだ
森になります

草木は
雷雨のような
種を降らせては
いのちが秘める可能性に
驚きを隠せません

ねえ、いつか
満月の口に
わたしが飲みこまれて
暗闇に惑ってしまったら
今度はあなたが
わたしを産みおとしてくれますか?

時々
泣きじゃくっては
あなたを
困らせるかもかもしれないけど
あなたを
千夜一夜の言の葉で
包めるくらい
もっと
もっと
奥深いヒトに
なれたらいいのに

 あなたが、光で
   わたしが、影で

月は
照らされていないと
満ち欠けることもできません


2011-08-04-Thu-19:32

夕げの風

夏なのに
枯葉になりそうな手に
ハンドクリームをぬります

野菜と洗剤の匂いが残る
人さし指に
クリームの真珠を灯して

手を重ね
円を描き合って
若葉のつやを甦らせます

お母さん

わたしもこうして
数珠つなぎの
優しさに
育まれてきたのでしょうか

夕げの風が
想い出の庭に
さざ波を立てて

藍色の木漏れ日が
まるで天の川のようです





(Seasons-plus-2011年夏号 掲載作品)

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